Good Bye Day(2009.02)


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子供の頃お父さんの愛車“目玉焼き”の中でよく耳にしていたのは小田和正さんや来生たかおさんの歌声です。素晴らしいこのおふた方の歌声を聴くと私はたちまち横須賀の異国臭さや逗子葉山の海岸線の景色と共に“あの頃”の空気に包まれます。

小さい私は父とふたりよくデートをしました。
土曜日、当時学校はお休みではなく3時間の授業を終え意気揚々、早く遊びたくてマフラーもスカートも翻し競うようにかよちゃんと校門を駆けぬけます。すると背後からプップッとクラクションの音。振り向くとお父さんのスカイラインが止まっています。

「・・・!! おとーさんだっ!!!」

小さい私はお父さんが大好きで大好きで、(今もね^^)もし私が犬なら思いもよらぬこのまちぶせにしっぽも千切れんばかりの超高速ワイパーのごとくだったことでしょう。父は仕事が忙しく子供たちが眠ってから帰宅し起きる前にはもういなかったので、そんな日がつづくと仕事の合間を縫って土曜日に校門の前で待っていてくれました。若い父は眼光まぶしく七三にきりっと髪を整え鍛えられた体にスーツを着こなしとても精悍(せいかん)です。でも笑うときゅーっと目尻りにシワがよって坂本九ちゃんみたいになりました。行き先は決まっています。まずは洋食屋さん。私はハンバーグステーキを食べます。小さい私とお父さんはあまりおしゃべりをしませんでした。父は新聞片手にたばこを燻らせ、ただゆっくり珈琲を飲みハンバーグを食べている私をうれしそうに見ています。目が合うとまた坂本九ちゃんの顔をするのでおかっぱの私もデミグラスソースをいっぱいつけた顔で微笑います。 それが会話でした。 

(今日(こんにち)ならこんな風景に度々ケータイ電話が登場するでしょうか・・
呼び出しがかかり父は途中で会社に戻ることになったりするのかな・・。さびしいな。)

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ゆっくりランチをしたなら今度は夕暮れ時までドライブです。鎌倉、茅ヶ崎、逗子、葉山・・海岸線の雲がオレンジに暮れてゆきます。
車の中は来生たかおの「Good Bye Day」が気だるく流れ出しました。
“Good by day ・・そしてI love you・・ One more day また一日おだやかならばそれでいい・・Good bye dayケリをつけて One more day また一日信じていればそれでいい・・” 小さい私には何を歌った歌かはわかりません。でも旋律に夕暮れも手伝ってなんだか胸がきゅーっとなります。心許なくて運転しているお父さんの顔をそっと見ました。みかん色の西日に照らせれたお父さんの目はまっすぐ、雲のずっと向こうを見ているような、何も見ていないような、私の知らないお父さんの瞳の奥を見てしまったようで小さい私はドキリとして動けなくなりました。陽に透けた長い睫毛が瞬いて我に返るとぼんやりしている私のまだ低い鼻をきゅっとつまんでお父さんはまた九ちゃんの顔をして小さく微笑いました。


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